もなか

欧州ど田舎暮らしで母国語のアウトプットに飢えているのでネットの森に穴掘って王様の耳はロバの耳

ハンス・ベルメール写真集

ハンス・ベルメール写真集 (fukkan.com)ザ・ドール シュルレアリスムの鬼才ハンス・ベルメールがすごい好きなのです。
 現在入手可能な写真集は2冊あって、値段は倍以上でも象牙色の方が断然おすすめ。これは'04年に復刊されたものなんだけれど、'92年発行のオリジナルとは幾つか違う点があって、今現在の日本の風紀系の法律に触れるために写真に修正が施されています。エロいからって。実物の女の身体を使ったもの、つまりマン…の部分が霞がかっているわけです。それはそれでネット上で見られるんだけれど。法律が変わることがあれば直ちに戻すとあるけれど、どうなのだろう。澁澤龍彦が生きていたらサド裁判みたいに何かやってくれたに違いない。
 ベルメールの人形写真を初めて見たときは、見てはいけないものを見てしまったような衝撃的な体験だった。球体関節人形の元祖というか神なわけで、日本の作家に多いアンティークドールと合体した愛玩人形なんかでは決して無いのです。ほとんどの球体関節人形作家はベルメールの亜流でしかないというくらいに、その影響力は今も絶大。
 森の中やドアの前で佇む上下ともに下半身の少女は、無機物でありながら今にも動き出しそうで、幼気で無邪気でエロティック。ペドフィリア的な嗜好と覗き見趣味的な願望が見え隠れする。
 ばらばらにされて置かれた人形を見ると、殺人現場に立ち入ったかのような気分。なんかもう、とてつもない破壊的な衝動を喚起させるとともに、その向こう側にネクロフィリア的な愛情さえも感じる。まるでそれは見ている側にその暴力的な衝動を直接体感させるくらいなんである。すごい。好きだ。強力な禁忌の欲望を生々しく人形にぶつけ、少女への憧れと、それゆえぶっ壊したいというアブノーマルな愛情が満ち満ちているのです。なんだ、ベルメールはサディストのロリコンかといわれれば、それはちょっと違うと思う。
 しかしてベルメールはやはり冷静なシュルレアリストで、単なる人形作家の作った人形というよりは、人形とその置かれたシチュエーション、デペイスマン効果のその非日常的な空間こそが作品なので、写真であるというのがやはり重要なのだと思う。
 例えば、四肢の欠損や肉体的な自由を奪われたものっていうのは、どこかエロティックに見えたりもする。SMの緊縛しかり、ギブスや眼帯に性的魅力を感じる人もいる。手足の欠損やシャム双生児、両性具有者、巨人、小人とか生理学的逸脱を抱えたものが、ある独特の好奇の目でみられるあの感覚。五体満足な人間は自分をノーマル側として、フリークスをアブノーマルとして自分の枠外に規定する。これは道徳的な観念によって丁寧に隠蔽されているんだけれど、逆に言えば道徳で縛らなきゃいけないほどに、どうしようもなく好奇心をくすぐるものでもある。あれはどうなっているんだろう、知りたいよ。覗いてみたい。
 無機物から作られたのに生々しさをもち、死んでいながらにして生を演じるもの。ありえない身体構造でありながら、今にも身をよじって動き出しそうな四肢。語りだせばきりが無いのでやめますが、澁澤龍彦の人形愛に関する著作は超お勧めです。ベルメールに出会ったのは、澁澤の魅力的な文章を通してなのです。
イビサ (講談社文庫) 四肢の欠損のエロスは、村上龍の小説『イビサ』でも、主人公の女が最後には手足を失くして性の女神と化すなんて形でもろに描かれていて、兎に角あのおっさんは動物的なサディストっぽいですね。衝動的な暴力描写大好きだし、お金も好きそうだ。イノセンス スタンダード版 [DVD]人形といえば、結構前に『イノセンス』というアニメ映画があったけれど、アニメにあまり縁が無いので未見のまま。暇があったら観てみたい。
 マリオ・Aというドイツ人アーティストは、ベルメールを自分に取り込んで再構築させるべく、生身の女を球体関節人形に見立てて箱詰めにしたりベッドに転がしたりしているんですが、もうこれは凄まじい死体愛好精神を見た気分になりますよ。この人の2冊目の写真集でモデルをした日本人女性は、ストーカーに殺されてしまったという話。何とも言えぬ成り行きで、言葉を失ってしまう。
 結構最近、死体愛好家がホンモノが欲しくて女の子を殺したニュースがありました。すげーな本格的だよと思いつつも何ていういかタブーっていうのは目を背けたくなる一方、めちゃめちゃ引き寄せるものなのだと思う。美学としては根本で違うのかもしれないけれど、日本のSMの緊縛って、よく知らない私にとっては何だか痛いのや酷いのは苦手なのであまり分からないんだけれど、マリオ・Aの女の肉体の完全な物体化っていうのは、よりいっそう冷めた危ういエロスがあるような気がする。これなんか、息をのむ美しさ
 なんでこういうのに惹かれるのかっていうと、私が凡百な女子だからです。欲情はしませんよ、うわぁ…と両手で目を覆った隙間から好奇心らんらんで見ている側です。こんなことを書いていると誤解されるかもしれないのですが、実際的な幼児性愛者や病的なサディストなんかは治療されてしかるべきなので、衝動の吐露として表現するのとは全く別物。禁忌のへの覗き見的興味は誰にだってある。でも人によっては全く生理的に受け付けないジャンルだと思うので、興味のある方だけどうぞ。そんなこんなで超長々と思いの丈をぶつけてみました。
ハンス・ベルメール作品画像・abcをクリック 日本の写真集で修正された画像 銅版画集『サドに』これは相当…
マリオ・A公式 画像あり