もなか

欧州ど田舎暮らしで母国語のアウトプットに飢えているのでネットの森に穴掘って王様の耳はロバの耳

『永遠と一日』

mxoxnxixcxa2006-09-01

 テオ・アンゲロプロスが好きだというと、なんだ通ぶりやがってみたいなイメージがあるのは、まあそうなんですけども、アンゲロプロス=眠いという図式は否定したいと思いつつ、さすがに私も『アレキサンダー大王』は何度か落ちましたが、この映画は本当に本当に、もう奇跡だと思う。中には「つまんねえじゃん、クソねみいよ」という人もいるのは分かってる。でもこの映画に出会えてよかったと心底思える、何年かに一度観たくなる作品の一つ。観るたびに何かしんしんと染み込んでくる。


なぜ願うことが思う通りにならない? なぜ我々は希望もなく腐ってゆくのか。苦痛と欲望に引き裂かれて。なぜ私は一生よそ者なのか。〜なぜお互いの愛し方がわからない?
テオ・アンゲロプロス全集 DVD-BOX IV (永遠と一日/再現/放送/テオ・オン・テオ) これは「死」を包括した「生」を描いた作品。金網に群がる黒い影。海辺にたたずむ過去の人々の幻影。バスのシーンの素晴らしさは言葉にならない。とにかく映像が音楽が美しいの一言。
 余命が僅かであることを自覚した老作家が過ごす一日。物語は、過去と現在を何度も交差させながら、現実と幻想の間でゆっくりと進行していく。現在身を置いているのは、厳しい寒さと閉塞感に包まれた冬の沈黙。そうして思い出すのはいつも、輝く海と眩しい光の中の夏。老作家の回想の中で、思い出の人物たちはその時の年齢なのに、自分だけは現在の姿のままなのだ。その視覚的な不和は、この作品を特徴付けている要素の一つだといえる。
 人生とは、孤独な魂が一時に見る夢のようなものなんだろうか。なぜ記憶の中では、過去ばかりが輝くのか。難民の少年の笑顔と、ブルーノ・ガンツの悲しげな笑い顔が焼きつく。ラストに溢れる光景は、どこまでも穏やかでありながらどうしてこんなにも切ないのか。しかしそれでも「人生は美しい」のだ。
明日の時の長さは?
永遠と一日