もなか

欧州ど田舎暮らしで母国語のアウトプットに飢えているのでネットの森に穴掘って王様の耳はロバの耳

そこに居ない男

mxoxnxixcxa2006-07-19

Yesterday upon the stair
I met a man who wasn't there.
He wasn't there again today
I wish that man would go away.

昨日階段で
そこに居ない男を見た
彼は今日もそこに居なかった
早く消えれば良いのに
Antigonish, 1899  William Hughes Mearns

 シンプルな四行詩で、なおかつ絶妙な韻。簡潔にして深淵。素晴らしい美しい。彼は誰を見たんだろう。自分自身でしょうかね。なかったことにしたい過去ですかね。忘れたい人ですかね。このように言葉にしてしまうと、この詩の持つ広がりはどんどん限定されていくみたい。きっとこういう詩は黙って鑑賞すべき。そうしてまた、和訳してしまうと、言葉そのものが直で入ってくるんだけれど、リズムが損なわれてしまうんですね。言語って深いなぁ。
 これなんかも超現実というか形而上学的というか、非常に面白いんだけれど、個人的には上記がすき。ここにおいては、自分=此処に居ない男なんですね…。

As I was sitting in my chair,
I knew the bottom wasn't there,
Nor legs nor back, but I just sat,
Ignoring little things like that.

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「そこにいない男」は何度か映画でも引用されていて、『ベルベット・ゴールドマイン』とか、ジョン・キューザックの出ていた『アイデンティティー』とかだったと思う。どちらも内容にはあまり関係なかったけれども、後者は結構面白かったよ。
 あと、コーエン兄弟監督でビリー・ボブ・ソーントンの『バーバー』だって、原題はThe man who was'nt there。非常にヘビーな一作。

William Hughes Mearnsについて