もなか

欧州ど田舎暮らしで母国語のアウトプットに飢えているのでネットの森に穴掘って王様の耳はロバの耳

『マグノリア』

mxoxnxixcxa2006-07-21

 どうせ観る時間があるなら、一つでも見たことないのが観たいよということで、あまり何度も同じ映画を観るほうではないんですけども、今日はとことんまでも『マグノリア』が見たくてたまらなかった日。
 これだけの大人数の一日が個別に進むさまを描きながら、空中分解させずにしっかりと一つのストーリーに織り上げた監督はもう、只者じゃない。あまりあれこれと解説したくないんですけども、未見の方は是非明日にでも見たら良いと思う。すげえよポール・トーマス。
マグノリア [DVD] 登場人物はみな一様に、感情移入するにはやや突出した過去を持つわけなんですけども、弱さと痛みを抱えた生身の人間として描かれ、この救いのない浮世でそれなりの居場所に身を置いて生きている。どんなシーンもひっそりと悲しさと暗さに包まて、物語は静かに淡々と、しかしすごいスピードで場面を変えながら進んでいく。嗚呼、何故楽しいことばかりに囲まれて生きていけないのか。どうして望んだような人生を送れないのだろう。喪失は痛みを伴い、憎しみは自らの傷を癒してはくれない。つらいなあ此岸は。もうイヤだわ私は。
 そんな救いのない一日を、あっと驚くお天気が洗い流し、登場人物たちを平らにリセットしてくれる。冒頭で示唆されたように、このばらばらな人物たちが最後には一つにまとまっていくのかなと思いきや、いいえ、そうでもないわよっていう。だからこの映画には救いは訪れないけれども、生きにくさへのほんの少しの許しと癒しと慰めがある。作品中でも、“映画なら、映画なら”と、繰り返されるように、またラストの驚きと脱力の出来事でスイッチを押されるように、これもまた映画というお伽噺であり、かすかなハッピーの匂いだってこれが一つのファンタジーなのだと念を押されても、この作品の登場人物たちの不細工な泣き顔を見てゲコゲコ呟き、エンドロールを見終えた頃には、不思議な高揚感が残る人間喜劇。
 存在自体でハリウッド的ナイスガイのアイコンを演じてきたトム・クルーズが、いかにもアメリカな張り詰めた男根主義のアイコンを演じたのは印象的でした。トム様って演技できるんじゃん!と、初めて批評家からも絶賛され、ゴールデン・グローブも受賞したというのに、一体最近のトム様には何が起こっているのだ。
 ちなみにかの両生類は、旧約聖書のパロディ。モーゼがエジプトをそいつまみれにしたというエピソードから来ているそう。新約聖書でも穢れたものの例えで引用されています。降水確率82%=出エジプト記8章第2節。クイズ番組でも「Exodus(出エジプト記)8 2」と伏線というか、単なるお遊びなんでしょうけども。